Vol.0340 NZ編 〜選挙に行こう!−言葉のスポーツ〜             2005年8月31日

9月17日に総選挙を控えたニュージーランド。絶大な人気を誇るクラーク首相が率いていながら、政策や閣僚に新味がなく何かと手詰まり感の強い労働党と、大型減税を引っさげ政権奪回に燃えるブラッシュ党首率いる国民党。百戦錬磨のクラーク首相&カレン副首相兼財務相(2人合わせた国会議員経験はなんと48年!)に、議員経験は1期3年のみながら中央銀行総裁を14年務めたブラッシュ党首&キー財政スポークスマン(元為替ディーラー)という、経済通コンビがどう挑むか? 一時はボロボロだった国民党ですが今回は完全に体勢を整え、支持率も労働党に肉薄するほど上昇してきています。              (クラーク首相を使ったかなり挑発的な国民党のポスター→)

テレビでの選挙報道の皮切りは、前回お伝えした生放送「リーダース・ディベート」でした。その後もラジオやテレビで二大党首ディベートが続いています。もちろん、新聞も連日特集を組んでは各党の政策や党首インタビュー、有権者の声を幅広く載せており、私など「なんて開かれた選挙!」と、感動しきりです。選挙権のない十代前半の子どもたちも多数コメントを寄せており、国民の関心の高さは驚くほどで、本当に間口の広い選挙です。

報道に接してまず感じることは、党首たちの話の上手さです。英語圏の人が得意とする洗練されたスピーチ、ディベートも、私にはとても新鮮です。特に180度意見が違う者同士が、自分の正当性をあの手この手で主張し相手を論破していくディベートには目が釘付けになってしまいます。これは言わば、「言葉のスポーツ」でしょう。相手がいるところが一方的に語るスピーチと決定的に違い、場を読んでの駆け引きが重要になってきます。そのため骨太な主張以外に、臨機応変かつ堂々とした姿勢、周りを引き込めるユーモア、あらゆるテーマに即答できる柔軟性など、頭脳の運動能力が問われます。

学生時代にESSなど英語部に所属していた人は、「ディベート」「スピーチ」「ドラマ」のうちの何かを選択するか、全部を順番にやっていたのではないかと思いますが、英語圏ではそのすべてが実生活で活かされています。逆に、社会に出て必要だからこそ、この3つを小さな頃から繰り返し、繰り返し習うのでしょう。日本の「読み」「書き」「ソロバン」のようなものです。メルマガ
「キウイの計算」でも触れたように、ここは「ソロバン」に欠ける分、「読み」「書き」に加えた「話し」の水準は相当なものです。その政治的最高峰が党首ディベートなのですから、面白くない訳がありません。

スポーツですから審判とルールがあり、終わった後にはきちんと勝敗も出ます。どの局も名うてのキャスターがモデレーターと呼ばれる進行役を威厳を持って務め、「ドン・ブラッシュ(呼び捨てです)、30秒以内に党の政策を述べなさい」など、どんどんテーマを振っていきます。これが正式なディベートのやり方なのでしょうが、"Please xxxx"=「xxxして下さい」とならない言い回しに、しまいにはモデレーターの顔が裁きを下す閻魔様に見えてきます(笑) 

限られた時間内でいかに印象強く、好感を持たれるようにアピールするか? 簡単なようでいて難しいものです。小党の一番手(支持率では微妙に二番手に下がってきていますが)、超保守で知られるニュージーランド・ファースト党の名物党首ピーター・ウィンストンやアクト党のロドニー・ハイド党首などは、"政治家"というよりも"政治屋"という雰囲気で、主張に一服盛るのを得意とします。ハイド党首がクラーク首相を"Bossy boots(威張った人)"と呼んだ時にはスタジオから拍手喝さいが起きました。ただし、こうした言葉は繰り返すと陳腐になり、2回目に言った時には拍手は起こりませんでした。

国民党のブラッシュ党首の場合、「ストップウォッチ使って練習してきたんじゃな〜い^^?」と思うほど、30秒きっかりでアレもコレもテンコ盛りにした政策を言い切りましたが、いざ終わってみると総花的過ぎて減税以外の印象がありません。政治の世界は器用な優等生だけでは通じないという、いい例でしょう。(彼が強持ての"政治屋"2人と並ぶと、本当に素人くさく見えます)しかし、その危なっかしさ、お坊ちゃまぶりを愛し、応援している中流層も大勢いることでしょうから、完璧でないことも時には強みになります。

かと思えば、小党の中では一番人気に浮上してきた緑の党(グリーン)。頑なに「環境!環境!」で毛嫌いしている人と熱烈な支持者とに評価が分かれる党ですが、党首たちが「減税だ!」「いや医療問題だ!」と、激しくやり合っている時に、「キウイ(人ではなく鳥の方)やアルバトロス(アホウドリ)にも配慮して・・・」と割って入るところは、「さすが!」です(笑) さて、"Bossy boots"と名指しされたクラーク首相は? 

しっかりカメラを見据え、これまでの実績をきちっと押さえながら長期安定政権への自信をのぞかせつつ、今後に期待を抱かせる見事な話し運び。そして最後に「非核政策を守る労働党」を強くアピールしてきっちり30秒。「上手い!」 舌を巻くこなれぶり。キウイ(今度は人の方)は「非核」に絶対的に弱いのです。そこを言い切れるのは故ロンギ首相下に、この政策を決定した労働党ならでは。民意のツボを完全に押さえています。非核政策を巡っては面白い話になっているので、この話はまた次回にでも。(不定期でつづく)

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「マヨネーズ」 スリランカ系同級生の家に遊びに行ってきた長男。彼と政治談議になったそう。「サンジェフがドン・ブラッシュは"チキン・アウト"しててよくないって言ってた。だからグリーンとレイバー(労働党)を応援してるんだって。」"チキン・アウト?"と思って辞書を見ると「びびる」とあり、思わずニヤリ。子どもながらによく見ているものです。8歳の善もグリーンを応援しています。理由は「ボクが一番好きな色だから。」

2002年の前回選挙の時のことはメルマガ「拝啓、クラーク総理」でそうぞ。

西蘭みこと