Vol.0331 生活編 〜子育つ期〜                           2005年7月30日

「フンフンフンフ〜〜ン♪」 子どもたちのバスルームから鼻歌が聞こえてきます。辺りはまだ薄暗く、こうこうとつけた電気の明かりが開け放したドアから廊下に漏れています。朝6時35分。冬休みが終わったばかりの月曜日。長男の温が学校に行く身支度をしているところでした。「起こさなくても起きたなんて・・・」 驚いた一方、誇らしくもありました。「こんなに成長してたんだ。」

今までであれば休み明けの初日は「眠いー、起きられなーい」と大騒ぎで、ベッドから引っぺがすようでした。休み中はどうしても夜更かしをし朝が遅くなるため、学校が始まっても早く起きられません。目覚ましなど入れておいても消してしまい、二度寝の後となると起こすのはさらに大変です。それなのに今回は6時半の目覚ましで1人で起きたのです。

キッチンに行った時にはすでに制服に着替え、自分でつけたストーブの前で本を読んでいました。「ママ、おはよ」とスッキリした顔。
「それ面白い?」
「うん、けっこうね。ちょっとかわいそうだけど」
と言いながら、私が勧めた本をもう少しで読み終わるところでした。彼は2月に中学生(日本では小学6年生)になってからすでに60冊近くの本を読んでおり、クラス一の本の虫なんだそうです。最新のハリーポッターの本も発売時間こそラグビーの試合で間に合いませんでしたが、試合が終わるや予約しておいた本屋に駆けつけ、翌日には読み終わっていました。厚さ5センチはある本です。この辺の濫読多読は私の中学時代にそっくりです。

雑談しながら朝食や弁当を用意しつつ、「もうこの子には教えることがない」と、つくづく思いました。子育てが終わろうとしています。人として生きていくのに必要なことは、ことごとく教えてきたつもりです。
                                   
「嘘をつかない」
 (最近はめったにケンカもしません。ラグビー帰り→)
「挨拶をする」                    
「お金も物も生き物も、みんな大切にする」
「約束を守る。守れない約束はしない」
「借りたものは返す。返せないものは借りない」
「その場で一番困っている人、弱い人のそばに行く」
「間違ったらすぐに謝る」
「いばらない。いじめない。見栄を張らない」
「人が見ていてもいなくても、正しいことをする」
「人の悪口を言わない」
「友だちを大切にする」などなど。
                                                               
ここから先は彼がそれを実践するかどうかです。どうすべきか、少なくとも私が何を望んでいるかは、わかっているはずです。その上で、教えられた通りにするか、あえて外すか。それは本人次第で、それこそが彼の人生です。親の意向を汲んだからといって、良い人生が送れるわけではありません。教えられた内容は、納得し、自分の血肉としてしまわない限り、ただの知識、常識でしかなく、本人のものにはならないでしょう。

今では、勉強、スポーツ、クラブ活動、習い事に関しても、すべて本人が決めています。算数、英語、体育、家庭科が大好きで、アートがちょっと不得手。私同様、絵心にはまったく恵まれなかったようです。ただ、手作りで立体的なものを作るのは好きなようで、材料が廃品だと俄然張り切るところにも血のつながりを感じます(笑) スポーツはとにかくラグビー。大人と同じグラウンドの広さや試合時間で、本格的なタックルもあり、香港の同学年と比べたら考えられないほどアグレッシブにやっています。

クラブ活動は元々好きなラグビー、チェスにガーデニングが加わり、昼休みにせっせと参加しているようです。学校以外ではスカウト(男女一緒でボーイスカウトではなく、ただのスカウト)に傾倒しており、すでに「一生やる」と宣言しています。この年で三度の飯より好きなものに巡り会えるとは、なんと幸せなことでしょう。一つ一つのことをマスターしては小さな布製のバッジを獲得し、それを制服に縫い付けて階段を一段ずつ登っていくのが彼らのやり方です。温はここ数年では、記録的な速さの"出世"(笑)だそうです。

その代わり、氷点下の大雨の中でキャンプもすれば、長袖長ズボンの着衣泳でスニーカーまで履いて600メートル泳げだの、音楽まで入れて短い映画を作れだの、ケーキを1人で焼けだの、環境問題でレポートを書いてみんなの前でパワーポイントを使って解説しろだの、さまざまな課題も振られてきます。それをリーダーの指導や先輩の助けを受けつつ最終的に1人でこなしていくのです。その挙句のバッジですから、毎回もらってくるたび、どんなに誇らし気か。2センチ四方の小さな布切れは努力の結晶です。

我が身を振り返ってみても、10歳以降は正直なところ、親の話などろくに聞いていませんでした。失敗したり痛い思いをしたりしても自分でやってみたく、転ばぬ先の杖的意見にはさして耳を傾けていませんでした。ただし、私の人生に多大な影響を授けてくれた小学校の恩師の教えは今でもしっかり生きています。子どもながらに生きる術を説く者を、真実を語る者を本能的に嗅ぎ分けていたのでしょう。教えは息子たちにも伝授しました。

温へ

「"子育て"という他動詞の時間は12歳までで終わりみたいね。ここからは"子育つ"という自動詞の時間。"子育て期"から"子育つ期"へ。これからどう育ってどう生きていくかは、あなた次第。12歳になったら絶対にしてはいけないこと以外、ママは何も言わないわ、多分。どうするかは自分で考えて。あと半年よね? あなたの成長を近くでしっかり見せてもらうわ。もちろん、相談したいことがあったらいつでも言って。喜んで協力するから。でも部屋だけは片付けてね。」

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「マヨネーズ」 「え〜、ママ命令していいよ。スカウトみたいに上の人にアレやれコレやれって言われるの好きだけどな〜。もう言わないの?」と、本人からは意外な返事が@@!

西蘭みこと