Vol.0319 NZ編 〜in NZ indefinitely〜

メルマガ「Indefinitely−永久に」をお送りしてから2週間後、私たち4人のパスポートが移民局から戻ってきました。同封されていた手紙を手に取り、何度も電話で話し、メールを交わし、面接にも臨んだ担当官からのメッセージを感慨深く読みました。彼女は徹頭徹尾、私への永住権認可には否定的でした。しかし、私の思い描くキウイそのままに、率直で、フレンドリーで、熱心で、多分早起きで(8時半前にはオフィスにいる人です)、忍耐強く、最後には自分で判断し、一歩前に出る勇気ある人でした。

意見がかみ合わないのにもかかわらず、私たちは問題を感情的なものに貶めず、一貫して礼儀正しく、親しみを感じる、大人のやり取りを続けることができました。当局という、どう考えても優位な立場にありながら、彼女は高飛車、横柄といった形容詞とは無縁の人でした。私の広げた真面目な大風呂敷に辛抱強く耳を傾けた上で、「あなたにこのまま永住権がおりる可能性はまずないでしょう」と、はっきり言う人でもありました。

「Date of Expiry: Indefinite(有効期限:無期限)だって。」パスポートに張られたシール状の在住許可証を確認していた夫が、嬉しそうに言いました。その下には「この許可証を保有する者がニュージーランドに無期限に(in NZ indefinitely)滞在することを許可する」と印字してあります。夫の夢、"indefinitely"がとうとう実現したのです。私の突然の思いつきに渋々付き合いつつも、最後には一緒になって願ってくれた彼への、せめてもの恩返しです。

いずれ機会を見て、認可までの経緯をご報告していくつもりですが、自分の名義で永住権に挑戦してみようと思った一番のきっかけは、あるキウイの一言でした。「仕事がないアジア人は申し込んでも絶対に取れない。取れるのはアメリカ人とイギリス人だけ」と言い切った彼は、移民事情に明るい人だったので、この一言は私へのウェイクアップ・コールでした。

彼が個人的にアジア人をどう思っているかはわかりません。わかったところで、私の彼への態度は変わりません。どうあっても、彼の意見を尊重します。ですから「アジア人をバカにした」などとは、毛頭思いません。こんな言葉ぐらいでカチンと来ていては、海外生活を楽しむことなどできません。それよりも事情に詳しい彼が、率直なところを伝えてくれたことに感謝しました。次の標的にまっすぐ飛んでいく私という矢を引いたのは、紛れもなく彼でした。

「なめたらあかんぜよ、あなたの国を。」 彼のオフィスを後にしながら、私は打ちのめされるどころか、沸々と湧いてくる勇気に嬉しくなっていました。「この国の底はそんなに浅くないよ。石を投げれば一世、二世に当たる国。その昔は鳥の楽園だったんだから、ここにいる全員が時期を違(たが)えてどこからかやって来た人たちか、その子孫。どこから来たかよりも、何ができるのかということの方が、遥かに大事なことをみんなが知っている国。見くびってはだめ。ここはもっと奥深い場所。」

標的は一つでした。「日本人の私が仕事のないまま、永住権を取得する」ということでした。技能移民部門での仕事は雇用のみを指し、自営は含まないため、私は「仕事がない」と見なされます。しかし、昨年12月13日以降は一種の規制緩和で、雇用(もしくは雇用契約)なしでの申請が認められるようになっていました。申請に必要なセレクション・ポイントは最低100でしたが、私の持ち点は110。英語力、健康、無犯罪などの基本条件も満たしていました。英米人にできるなら、アジア人もできるはずです。

私はNZに対する信任を、身をもって証明することにしました。キウイにも、申請が上手くいかないゆえに「これは人種差別」と問題をすり替え、出口のないものにしてしまう申請者にも、この国の真の姿を見誤らないで欲しいと思いました。「まず自分が信じよう。理解はそこから始まる。」 心のままに行くことにしました。

「あなたの国、もしくはあなたが選んだ国は、懐深い素晴らしい国。信じて下さい。上手くいかないのは、何か理由があるからです。不本意な結果はその理由に気づくための貴重な機会。ぜひもう一度、見つめ直してください。道は必ず開きます。その遠回りはきっと自信につながり、人生を豊かにすることでしょう。上手くいく時も、いかない時も、同じだけ意味があるのです。上手くいかなかったら謙虚に受け止め深く考え、上手くいったら結果に奢らず感謝をかたちにしていきましょう。どちらであっても失うものはありません。すべては人生をより良く生き、愉しむための過程です。」

心の中で誰彼となく語りかけながら、何よりも自分に言い聞かせていました。この過程はまさに、昨年7月に移住が実現するまで七転び八起きだった私たちが、実際に歩み、学んだことでした。新たな道に踏み出すことに、ためらいはありませんでした。それがNZへの信任のためなら、なおさらです。そして届いた、"in NZ indefinitely"と記されたパスポート。アジア人であることの誇りとニューキウイとなった感謝は、無期限に与えられた時間を旅するための心の支えです。私たちはここで生きていきます。


               (パスポートを受け取った翌日の朝焼け。新しい1日の始まりです→)

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「マヨネーズ」 面白いサイトを教えてもらいました。「最期の言葉」を占うサイトです。私の結果は「あなたに会えてよかった」でした。「晩秋の夕暮れの中、人生のパートナーの手を握りしめ」て言うんだそうです。子どもも一緒だったら、これ以上の最期はありません。

西蘭みこと