Vol.0308 NZ・経済編 〜キウイの妻とアメリカの愛人〜         2005年5月14日

5月3日(ニュージーランドや日本時間では4日)、アメリカ中央銀行である連邦準備理事会(FRB)は定例のFOMC(連邦公開市場委員会)で、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.25%引き上げ、3%としました。3%の大台は2001年9月以来で、利上げは昨年6月に4年ぶりに実施されて以来8度目。金利水準はFRBや市場が見込んでいる長期安定水準とされる3−4%に入ってきました。

アメリカの金利は2003年6月に、1958年以来45年ぶりに1%に低下し、その後1年にわたって歴史的な超低金利政策が続きました。これは同国が国連安全保障理事会(安保理)の反対を押し切って、イギリスやスペインと手に手を取って強硬にイラク侵攻を押し進め、その後のゴタゴタで国際的に不信任を突きつけられていた時期と重なります。しかも、得体の知れないナゾの肺炎SARSが、人類を震え上がらせた直後でもありました。

あれから2年。2001年9月以来の3%の金利。あの忌まわしい「9・11」直後の9月17日に0.50%の大幅利下げが実施され、金利が3%に低下して以来の回復。アメリカは2001年初から金融緩和局面に入り、2000年末まで6.5%だった金利はたったの9ヶ月で半分以下にまで急低下していました。アメリカの複合リスクを察し、世界中で米ドル資産の見直しが進みました。各国中央銀行を含む世界の投資家が手を引き資産を売り出せば、どんなに強い通貨も腰折れていきます。

そこを襲った「9・11」。アメリカ・リスクが決定的になりました。 金利が「9・11」以前に戻るということは、広い意味でアメリカのテロ・リスクが3年半の年月をかけて収縮したとも言えましょう。金利が3%を回復した当日(現地時間で)、イラクではジャファリ首相による新内閣が発足しました。多数の重要閣僚ポストが空席のままではあるものの、イラクは国家再建への第一歩を踏み出しました。しかも、その日、パキスタンでは「9・11」を仕掛けたアルカイダのナンバー3が拘束されています。ビンラディンの居場所追求、組織と「9・11」の解明に向けた拷問(新聞さえ「厳しい取調べ」などという歪曲な表現をしないほど自明の事実なのでしょう)が始まっています。

このタイミングの妙。偶然でしょうか? 私は「この世には偶然というものはない」と信じている人間なので、何かの思し召しとしか思えない、経済、政治の枠組みを越えた見事な引き合わせの妙に、感嘆を禁じ得ません。今や世界の金融市場は完全に地続きで、世界各地の新展開に対しどの市場も瞬時に反応します。アメリカも、パキスタンも、イラクも、人民元動向が注目される中国も、もちろんニュージーランドも、すべて分かちがたくつながっているのです。通貨、金利、株、債券、商品先物などあらゆるものは、眠っている間も絶え間なく取引されており、目が覚めたら市場の風景が一変していることもあります。

今は世界が新局面に入ったのを強く感じています。一昔前、耳にタコができるほど聞かされ、中国政府が躍起になって否定しても、決して消えることのない懸念だった人民元「切り下げ」。それが今や「切り上げ」に向けて、日米始め各国が圧力をかける時代。アメリカ・リスクの好対照としてここ数年脚光を浴びてきた南半球の優等生もまた、新局面に入ったと思われます。

米ドル離れで行き先を失った資金が流れ込み、折しも世界的な資源高という局面で、とんでもなく上昇してしまったニュージーランド・ドル、オーストラリア・ドル、南アフリカ・ランド。「資源通貨♪」だの「高金利通貨♪」だの、投資家の愛着ぶりが如実に出た愛称までついて、どれも大変愛されてきました。通貨高が、国民が歯を食いしばり額に汗して手にした果実よりも、"棚ボタ式"の資源高要因であることが、ずっと気になっていました。労働生産性などむしろ悪化しているのに、そんなことは問わない雰囲気がありました。不動産を中心に資産バブルも歴然としています。しかし、資金を米ドルから逃避させたいという外的要因があまりにも強く、高水位から船も山に上る状態でした。

米ドル金利が4%台に近づき、人民元切り上げが現実味を帯びてくるとなると、相場は角を曲がり、目にする風景も変わってくることでしょう。主軸通貨が金利4%となれば、いくら「ファンダメンタルズが・・・」「貿易赤字が・・・」と言ってもカネが動きます。投資家は往々にして、良妻賢母のファンダメンタルズを妻に、自由奔放な流動性を愛人にするものです。理屈で縛られるよりも、いつでも好きな時に好きなことができる自由を愛するのです。さて、ここからは丸メガネの知的ベビーフェイス、苦悩の額にサラりと前髪がかかる、ニュージーランド中央銀行のアラン・ボラード総裁のお手並みを拝見させてもらいましょう。

******************************************************************************************

「マヨネーズ」 ボラード総裁はけっこう好みで、スピーチはできる限り読んでいます。「ニュージーランド・ヘラルド」の最近の写真やイラストはなかなか"カワイイ"仕上がりなのに、中央銀行のホームページの写真はあまりにもあまりです(涙)

アジアでさんざん見聞し、自分もその中を泳いできた高水位にそっくりな今のNZ。アジアでは「資産バブル」、「資産インフレ」と警戒されながらも、誰もが好景気に酔いしれていました。現在、NZではいろいろな業界が大型ストに入っています。労働者が権利を遂行することにまったく異論はありませんが、勝ち得た賃上げが物価を押し上げ、貨幣価値を低下させ、稼いでも稼いでも生活が楽にならないというインフレの正体にも思いを馳せています。
          (→長期ストを決行したバス会社。看護婦のストやレントゲン技師のストも)

西蘭みこと