Vol.0301 NZ・生活編 〜アウト・オブ・カースト〜

ニュージーランドに移住して来るや、友人に釘を差されました。「みことさん、ここでは日本人に知り合うたびにみんなから開口一番聞かれますよ、"ビザは何ですか?"って。」 同じ話を移住前にも別の友人から聞いたことがありました。試しに「どうして?」と聞いてみると、在住者のビザの中では「永住権」が一番"エラく"、次に仕事目的の人におりる「ワーク・ビザ」、そして若い人におりる1年間限定で観光や勉強、働くこともできる「ワーキングホリデー・ビザ」へと続くというのです。

「じゃ、私たちのように起業する人におりる"ロングターム・ビジネス・ビザ"(LTBV)はどうなるの? 士農工商以下ってことかしらね?」と言って、思わず笑ってしまいました。LTBVは移民当局の扱いとしてはワークと同じですが、雇用されていない不安定な身ゆえ最長3年までの期間限定、永住権申請までのいわば"つなぎビザ"です。ですから、厳しい"移民カースト制度"の中では、ワークと同一視されることはまずないでしょう。私たちはカースト以下の、"アウト・オブ・カースト"のようです(笑)

この制度、下克上もありだそうで、ワーキングホリデーで来ていた人が、ワークを持った人から、「なんだ〜、"ワーホリくん"なの〜」と言われて一念発起し、いきなり永住権を取ってしまったという話も聞きました。カーストの中でやっていくのも、なにかと大変なようです。もちろん、無期限の滞在を許可された永住権があるに越したことはありません。しかし、これも何かのご縁。必要があればどんなに条件の厳しい時期や人にでもおりるんでしょうが、そうでなければなかなかご縁がないものです(笑)

移住早々、挨拶に行った移住エージェントで言われたことは、「移民社会に留まるな」ということでした。「言葉も通じるし、なにかと便利で同じ国から来た人たちとだけ付き合ってるお客さんが多いけど、それはよくない。君たちはこの国に貢献することが求められてるんだから、どんどんキウイ社会に入って行って知り合いを作り、社会に貢献してってほしい。移民がトラブルに巻き込まれるのは、移民社会の中の儲け話や"絶対に永住権が取れる"という甘い話に乗った結果が一番多いんだ。同胞同士だとつい安心するらしい。気をつけるように。君たちにこういう目に遭ってほしくないからね。」

彼の頭の中には中華系、韓国系社会の具体例があったようですが、言わんとしたことは日本人の私にもよくわかりました。私たちが日本人とのお付き合いに終始するというのはちょっと想像できませんでしたが、彼の率直さに感謝しつつ拝聴しました。移住が認められた恩義は十分感じていますから、社会への貢献を口約束で終わらせず、目に見えるかたちでやっていこうと常々思ってもおり、エージェントといえども一キウイである彼の期待に、「応えたい」と素直に思いました。

さて、あれから8ヶ月以上経った"アウト・オブ・カースト"の私たち。特に"微動派"を自認する私は、幸か不幸か誰からも「ビザは何ですか?」と聞かれたことがありません。知り合う日本人の方が、誰かの紹介やホームページを通じての方であることが多いため、多少なりともこちらの素性をご存知で、そういう質問が必要ない場合がほとんどという事情もありましょう。そもそも私には、知らない日本人の間に入っていくような機会がまったくと言っていいほどありません。("多動派"夫は聞かれているかも・・)

何かや誰かと比べつつ相対的に生きていくのではなく、物事すべてを絶対的にやっていく私としては、カースト外もまんざらワルくありません。「ビザは人の上に人を作らず、人の下に人を作らず(爆)」と呑気なものです。私たちは香港時代から日本人社会に属していたとは言いがたく、私など通算14年も暮らしながら日本人の知り合いが驚くほど少なく、「えっ?○○さん知らないの?△△さんも?」と、よく言われたものでした。

私は、出会いというものは必要な時に向こうからやってくる、"授かる縁"と信じています。そのため、自分からは求めない質(たち)です。出不精とか無愛想と勘違いされるかもしれませんが、人に紹介を頼むこともほとんどなく、不特定多数の人に出会うことを目的とした合コンから異業種交歓会まで、数えるほどしか出たことがありません。こういうことをすると、せっかくの大切な出会いがよくわからなくなってしまうように思うからです。もちろん、大事な人と新春名刺交換会で出会うかもしれませんが、本当にご縁があるなら行かなくても別の機会で出会うものだと思っています。

・・・と、一応の理論武装をしてはいますが(笑)、実際は青空市場に行ってもラグビーを見ても「いいなぁ♪アイランダーくんたち」とマオリを含めたポリネシアン系の人たちに熱を上げ、キウイのみならずヨーロッパ人やインド人などで古い価値観や家族感を大切にしている人たちに親近感を覚える日々です。今までのように中華社会に片足を突っ込んだような状態でいたいとも望んでいます。もちろん、とことん日本語で語り合える日本人の友人の大切さは身にしみています。そして、下の方から見上げつつ、新たな本物の出会いの糸が、目の前にスルスルと降りてくるのを待っているところです。
(←アイランダーの祭典「パシフィカ」は本当に楽しかったです♪)

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「マヨネーズ」  「ビザは何ですか?」と聞かれたことはありませんが、聞いたことならあります。よく行くグレン・イネスの中国人の魚屋の小父さんに聞いてみたところ、私たちと同じLTBVでした♪ 「永住権まで最も遠く厳しい、妙なもの取っちゃったよね」とお互い苦笑しながらも、親近感が湧きました。彼は在住2年目で出店、「最初は苦しかったけど、最近はまあまあ」とのことで、永住権に王手をかけているようです。

西蘭みこと