Vol.0293 生活編 〜たった一つの夢〜

ある日、夫がぽそっと言いました。「最初からニュージーランドに移住したくて来た人って、あんまりいないと思わない? 我々みたいに、"NZ♪NZ♪"って騒いでやってきた方が珍しいんじゃないか?」 これは私たちのような、永住目的の日本人を指しての話ですが、そう言われてみると確かにそうです。知り合いでも、長年カナダ移住を希望していたものの、目的地をオーストラリア→NZと変えた人。駐在していた東南アジアとNZとの間で悩み、英語の利便性を取ってNZを選んだ人。「とにかく英語圏」で検討し、イギリス、オーストラリアを諦めてNZにした人などが、思い浮かびます。

ワーキングホリデーでやってきたまま定住しているか、いったん日本に帰ってから出戻った人でも、よく聞いてみると、「アメリカ留学希望だったけど親が反対した」、「本当はイギリスでワーホリしたかった」、「手持ちの貯金で来れたのがNZだけ」など、消去法でNZが残ったケースがけっこうあるようです。もちろん、新婚旅行で来た時から移住を決めていた人や、さんざん情報を収集し最初からNZに決め、下見なしでいきなり移住して来た人、私たち同様、旅行で来て気に入って決めた人もいます。ですから、限られた知り合いだけで結論づけることはできませんが、NZが第二、第三志望だったケースは案外多いようです。華人系となれば、志望順位は更に低くなるでしょう。

西蘭家の場合、言うまでもなくNZ以外の選択肢はありませんでした。そもそもオークランドをクルマで流している時に、「ここに住みたい!」と思ったことが発端だったため、比較する対象すらありません。当時は香港の生活に満足しており、「いつかは離れるだろう」と漠然と考えてはいたものの、子どもが海外の大学にでも入る十年後ぐらいをメドにした、遠い話だと思っていました。ましてやどこに行くかなど、想像だにしていませんでした。そのためNZは完全な第一志望、たった一つの夢でした。腹を決めた以上、私には香港に残るという"滑り止め"はまったく考えられませんでした。

"たった一つ"のいいところは、他に未練がないことです。それしかないので、それしか見えません。比較のために情報を集める必要も、比べた結果に悩んだり迷ったりすることもありません。ただただ、夢に向かって進むのみです。この単純明快さゆえ、気を揉むことがほとんどなく、気分はいつでもいたって爽快。たとえ何かで落ち込んでも、一晩寝ればだいたい突き抜けているというシンプル構造(笑) 状況が厳しくなっても、それしかないとなると前に進むしかありません。歩幅が狭くなったり、立ち止まったり、ちょっと引いてみたりすることはあっても、よそ見はしません。とにかく前へ、前へ。

考えてみると、私の人生にはいつも"たった一つの夢"しかありませんでした。高校受験も県立高校の単願でした。理由は「歩いて行けて、その学校が好きだから。」 他の学校に行く気がない以上、併願は時間とお金の無駄に思え、「落ちたら夜学にでも行こう」と本気で考えていました。大学も似たようなものです。偏差値の一番高かった私大はお世話になった英語の先生の勧めによる、"記念受験"でした。しかし、行きたい学科もなく、一次試験に受かっても二次の論文を受けるつもりはなく、けっきょく不合格。最終的に、心底行きたかった第一志望校に入りました。

卒業後の身の振り方も同様で、就職という選択肢をばっさり捨て、好きで好きで仕方なかった台湾への留学を決行。大学の「就職課」(という名前だったかもウロ覚え)が、どこにあったのかさえ知りません。香港での就職も台湾留学時代から夢見ていたことで、フランス経由になりましたが目的遂行。パリ滞在は1年で十分。間違っても住もうとは思いませんでした。その後のシンガポール行きも台湾時代に決めていました。大学のゼミで学んだ華僑の暮らしぶりに興味があり、ロンドン行きという選択肢を蹴って独り南洋へ。その後、結婚し夫の転勤で香港に戻りましたが、それは私の希望でもありました。

そして出会ったニュージーランド。「ここに住みたい!住もう」と思ってから早4年。これこそ"たった一つの夢"でした。移住を決めてからここへ来るまでの間、いろいろなことが起きましたが、ついぞ「行かれないかも」と考えたことはありませんでした。「いつ、どうやってかはわからないけど、絶対行ける」と端から信じていました。傲慢に聞こえるかもしれませんが、そう信じ込めるシンプルかつシアワセな頭の構造なのです(笑) 
(←「ここにお引越してこない?」と言ったら涙ぐんでいた当時6歳の温と、まんざらでもなさそうだった3歳の善)

おかげで余計なことに気を使わず、ひたすら念じるのみ。移住申請から認可までの1年2ヶ月の長い待ち時間も、日本滞在、退職しての専業主婦入門、在宅での兼業経験など、移住後に照準を合わせて過ごしたせいか、大いに楽しむことができました。

昔から言われているように、「信じる者は救われる」のかもしれません。一つしかない夢ですから、それこそ大切にします。かなうことだけを考え、「失敗したら・・・」というネガティブ思考は締め出します。というか、夢がかなった後の楽しい想いで頭がいっぱいで、他のことなど考えられないのです。失敗は直面した時に初めて考えること。その時にですら「夢はかなう」と信じられれば、何かしら解決策も見つかることでしょう。夫には常々、「どうして二つのことが同時に考えられないの?」と呆れられていますが、今さらながら一つのことしか考えられないシアワセ体質に感謝しつつ、そろそろ次の夢を追いたくなってきました。

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「マヨネーズ」  次の夢は壮大かつ漠然としていて、今のところきちんとした像を結ばない遠景でしかありません。多文化・他民族社会に本気で根を張ろうと考えている中、自分がどう生き、何ができるのか、生涯をかけて追求していこうと思います。

西蘭みこと