Vol.0274 NZ・生活編 〜オタラで逢いましょう その2

クリスマス直前のフリーマーケットに参加しようと、南オークランドのオタラまで来たはいいものの、時間は朝5時半。天気もあいにくの雨で気温はどう見ても20度以下。場所の予約が事前に取れていなかった私は、「当日キャンセル」枠に入ろうとする30人近い、ほとんどが中国大陸からと見られる華人系の人たちに混じって、場所の振り分けを待っていました。しかし、読み上げられる名前は「ワンチョンホン」だの「リョンチョイコン」だの、抑揚のない英語読みの中国語名ばかり。なかなか順番が来ません。

10人ほどが呼ばれ引き換え券のような白い紙を渡されたところで、「ホールの外に白いバンが停まってて搬入の妨げになってる。すぐにクルマを移動させろ」と言って、別の係員がトランシーバーを持って走り込んできました。名前を読み上げていた年配の係員が老眼鏡越しの上目遣いで、「聞こえたか?誰のクルマだ。すぐ動かせ。」と凄みのある声で言いました。みんなは突然のことに黙ったまま顔を見合わせるばかり。「動かせ。わかったか? わからないヤツは誰かに聞け。移動させるまで名前は呼ばない」と言うと、彼はファイルを閉じ、オフィスに引っ込んでしまいました。

思いがけない展開に唖然としていると、みんながワイワイ騒ぎ出しました。「どうした?」「何があったんだ?」と言っているではありませんか! 私はその時点ではっきりと、ここに集まっている人たちが、ほとんど英語を理解していないことに気づきました。「そうだったのか!」 いきなり「ニーハオ」と声をかけられたのも、英語で話しかけたら怪訝そうな顔をされたのも、横柄に見えても係員が人を手で振り払うのも、同じ理由だったのです。

誰かが問題のバンを指差しながら説明し出すと、みんなが一斉にそちらを見ています。この時間差!「こういう人たちを英語で誘導するのも大変だろうなぁ」と、ぶっきらぼうに見えた係員ににわかに同情を感じました。しかし、みんなは口々に、「俺たちのじゃない。あいつらのなんじゃないか?」と言っています。"あいつら"とはつまり、マーケットを仕切っているマオリやパシフィック・アイランダーなどポリネシアン系の人たちのことです。

南オークランドはポリネシアン系が多く住むことで知られており、実際、私が目にした10人近い係員はすべて褐色の人たちでした。そもそもこのマーケット自体、買い物客の大多数がポリネシアン系で、白人客のかなりは観光客のようでした。誰もホールから出て行こうとせず、バンがここにいる人たちのものでないことは明らかでした。しかし、バンは動かず時間ばかりが経っていきました。
(←ポリネシアン系のお客さんに中古家電を売っている華人女性)

みな所在なげに立ち話をしているので、私もそばにいた若い男性に中国語で声をかけました。「さっき名前を呼ばれた?」「いや。」「呼ばれた人って場所が確保されたの?」「そうとは限んないよ。来てるかどうかチェックしてるのさ。」「じゃ、まだ時間かかる?」「あぁ、あと1時間はかかるだろうね。」 先ほどの青果商のおじさんは8時まで2時間半待ちと言っていたので、それから比べればましです。しかし、1時間待ちでも始まりは7時。「そんなに複雑な手続きでもなさそうなのに」と、ため息が出ました。

「何を売りに来たんだ?」「手作りのアクセサリー。」「ふーん、売れんのか?」「わかんない。そっちは?」「おもちゃだよ。去年も来たんだ。っていうか1年に1回しか来ないんだけどね。」と言い、お互い素人ということがわかり、思わず苦笑し合いました。そうこうするうちうにバンが立ち去り、20分ほどいなくなっていた係員が戻ってきました。この時点で時間は6時半過ぎ。

点呼再開。名前を呼ばれた人は一応"Here"と言ってはいるものの、よくよく注意して見ていると、違うところにいる2人が同時に返事をしたり、周りの人に「俺?」と聞いている人がいたり、かなり心許ない様子。ある年配の女性など、中国人の名前だろうが、"○○リミテッド"と社名であろうが、名前が読ばれるたびに前へ出て行き、係員に文句を言われ、手で追い払われるようにしながらも、必死でファイルをのぞきこんでは自分かどうか確認しています。彼女はそれを6、7回繰り返し、とうとう名前を呼ばれ、嬉しそうに引き換え券をもらって戻ってきました。
(→フリマで衝動買いするにはかなりの大物、絨毯!)

10数人が呼ばれたところで、係員は「ここでいったん終える。続きは後だ。」と告げ、再び引っ込んでしまいました。「あーっ」という一斉のため息。名前を呼ばれた人も呼ばれなかった人も残っています。青果商のおじさんも、おもちゃ売りのおにいさんも、最初に話しかけた初めて来たという女性も、もちろん私も。辺りはすっかり明るくなっています。時間は7時。すでにここに来てから1時間半が経過していました。(つづく)

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「マヨネーズ」 スマトラ沖地震後の巨大津波が発生してから11日間連続で、全国紙「ニュージーランド・ヘラルド」のトップニュースは津波関連でしたが、12日目の1月7日、とうとうトップから外れました。しかし、関連写真を満載した津波特集号が入っており、問題への関心が新聞発行元、市民双方の間でいかに高いかがうかがわれます。

現地取材、通信社からの配信、外国の大手新聞からの転載と、ありとあらゆる情報がつぶさに報じられており、事件の全容から目を反らさず、遠い地からでも少しでもコミットしていこうとする姿勢が強く感じられます。それを反映するように、募金も呼びかけているNGOが驚くほどの集まり具合で、市民は"My thoughts are with you"を地で行っています。

西蘭みこと