Vol.0258 「NZ・金融編」 〜銀行チャチャチャ 最終回〜

ニュージーランドに来て2週間も経っていないモーテル暮らし、永住権はおろか給与証明もないまま、凸凹銀行でまさかのクレジットカードが取れてしまった私たち。「やったー♪」と喜んだのもつかの間、今度はカードが見つからないという予期せぬ事態。新住所には引越し前日まで私たちの前のテナントが住んでいたため、カードの家への送付は最初から念頭にありませんでした。

その上、「ニュージーランドでは銀行の住所変更一つでも、すごく苦労する」と先輩移住者たちに聞いていたため、郵便物は最初から、近く開く予定だった私書箱に送ってもらうつもりでした。それゆえにカード申請の際には、万が一カードが発行されたら、「店頭に出向いて引き取る」という欄に印を付けたはずでした。なのに、発行されたはずのカードが見当たらないのです。

凸凹に足を運んでいる間にも、「住所変更をしたのに、いまだに古い住所に郵便物が届くのですが・・・」と、窓口で苦情を言っている、きちんとした身なりの白人男性を見かけたことがあります。「申し訳ありませんが、こちらの用紙にもう一度、新住所をご記入いただけませんか?」と、インド系の若い担当者が丁寧に対応すると、「その用紙には、もう3回記入しました。どうしてそれでも登録が変更されないんですか?」と男性は物静かに尋ねています。

私は二人のやり取りが感情的なものではなく、ごくごく紳士的なものであることに、むしろ事態の深刻さを感じました。「いったいどうなってんだー!!!」と怒鳴り込みたくなるような、万に一つの偶発的なミスではなく、問題の所在が当事者にもわからないような構造的、恒常的な問題であることを察したからです。二人はしばし窓口を挟んで、黙りがちになってしまいました。苦笑するでも、怒りを顕にするでもなく、本当に途方に暮れるという風に・・・。

「そうそう、口座を開いた時に決めたアクセスコードが間違えて入力されてるみたいで、テレフォン・バンキングで危うく自分の口座にアクセスできないところだったのよ。」カードの話はいったん脇に置き、担当者のディーンに昨夜の一件を言ってみると、「どうして?」という、天真爛漫な返事! 腰砕けになりそうなのをグッと堪えて、「さぁね、あなたが入力したんだから私にはわからないわ。正しいのに訂正してくれない?」「それはできないよ。あれは口座開設時に設定してしまうから、後から変えられないんだ」という、まさかの返答!

「じゃあ、間違ってるアクセスコードを教えてよ。そうじゃないとテレフォン・バンキングができないから」「悪いけどそれもできないよ。個人情報だからね・・・」と、どこかで聞いたような返答ならぬ、変答! 「でも、電話のオペレーターは"口座を開設した支店に戻ってコードを変更してください"って言ってたわよ!」「本当かい?」と、彼は初めて私に向き直り、「じゃあ、ここにもう一回書いて」と言って紙とペンを差し出しました。私が書いた日本語のローマ字表記とコンピューターの画面を見比べながら、すぐに「あー、PとBが間違ってたんだ〜」と、嬉しそうながらも呑気な反応。

そしてカタカタとキーボードを操作しているうち、「あっ!できた!!変更できたよ♪」と、驚きながらも得意そうに言いました。そう言われると、キウイ式に"That's great!"という言葉が自然に口をつき、こちらまでワクワクしてきてしまうから不思議です。二人でニコニコし、「できた♪できた♪」と、すっかりいい気分。なぜか不備なサービスへの不満など、どこかに行ってしまうのです。窓口の苦渋に満ちたあの紳士の気持ちが、少しわかったような気がしました。

その後、カードのことはうやむやなまま週末に。週明けの月曜にはモーテルを引き払って新居に移り、火曜には香港からの、段ボールにして106箱の引越し荷物が家に届く段取りだったため、私たちの方もカードどころではなくなってしまいました。「まぁ、そのうち出てくるだろう」と、たいして気にも止めないまま、慌しく週末を過ごし、月曜の朝を迎えました。朝方早々に不動産屋と落ち合い、いっしょに新居に入りました。

「あら、すごいじゃない。もうあなたたち宛に手紙が来てるわ」という不動産屋の声に、慌てて声のしたキッチンに駆けつけてみると、造り付けのキャビネットの上に、夫と私宛の二通の封筒がきちんと置かれていました。まるでホテルの部屋に用意された、「ウェルカムレター」のようです。ただし、体裁はらしからぬ、ビニール窓が付いた横長の白封筒。「もしや!」と思って手にすると、紙だけではない硬い感触。封を開けると、真新しいピカピカのクレジットカードが顔を出しました。まるで"Welcome to 凸凹 Bank"と言わんばかりに・・・。

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「マヨネーズ」 いや〜、書きに書いたり、計9回!「Where we were」の8回を抜き、完結編まで入れた「真夜中の一番風呂」に並ぶ長さ! なんでこんなに長くなったのか本人も首を傾げてます。あまりにも個人的な体験で、情報と呼べるようなものではありませんが、NZの銀行、ひいては金融業界全体の空気を読んでいただければ(読めても何の役にも立ちませんが^^;) 今のNZの銀行は個人や法人の預金をかき集め、不動産を担保に貸しまくるというバブル崩壊前の邦銀を髣髴とさせ、ちょっと不安。「スワップぅ?デリバティブぅ?何ソレ?」っていう雰囲気も^^; 長い間のお付き合い、ありがとうございました。

西蘭みこと