Vol.0253 「NZ・金融編」 〜銀行チャチャチャ その7〜

普通だったらクレジットカードが取れない永住権のない私たちに、「とにかく、やってみよう」と言って、申請を手伝ってくれた凸凹銀行のディーン。私が書いた申請用紙にちょこちょこ説明を加えてくれました。問題になりそうな欄の脇に、「最近来たばかりの事業ビザを持った移民なので給与証明がなく・・・」とか、「主要資産は海外ながら、現在の預かり資産は・・・」などと、私たちのカード取得を支援する内容を小さな字で書き込んでくれたのです。

「これこそが信用なんだろうな。」銀行に8年近くいて、こういう個人的な思い入れこそご法度ということを知っていながら、ふと、そう思いました。毎日のようにここに通い、いろいろ相談しているうちに、彼なりに素性の知れなかった私たちのことを信用してくれた結果が、この小さな文字の羅列です。いくら人の良さそうなディーンでも、同じことを初対面で頼んだら、決して乗ってくることはなかったでしょう。資産を信用の足しにしてもらえるのであれば、移住資金としてまとまったお金を持ち込んでいる今がチャンスです。結果はともあれ、彼の協力に深く感謝しました。

書き込みをしながら「希望限度額はいくらにする?」と言って、ディーンが顔を上げました。「永住権と給与証明のない者には絶対にカードを発行しない」という方針でなければ、これが申請のカギになるのは明らかです。こちらの資金力など、本来は絵に描いた餅です。いざという時に、他行に預けられた預金を凸凹が取り崩せるわけではないので、彼らにとっての本当のリスクは、どれぐらいの大きさの打ち出の小槌――限度額を、顧客に渡すかでした。ですから金額を間違えることはできません。

「月間3000ドル」(約25万円)―もしも発行してくれる可能性があるとすれば、この辺が妥当な線でしょう。金融業界の常識として、きちんと支払いさえ続けて実績を残せば、後で限度額を引き上げるのはそれほど難しいことではないはずです。しかし、この金額では移民直後の何かと物入りが集中する時期にあっては、限度額に達してしまいカードが使えなくなる可能性があり、実績を積み上げている時間的余裕もありません。けっきょく、その辺の計算を捨て、本当に欲しい「5000ドル」(約40万円)で申請してみることにしました。ディーンも首を縦に振ってくれました。

「よし、できた。じゃ、今から本店のカード部門に電話を入れてくるよ。多分、審査に数日かかるだろうけど、それはかまわないよね?」彼の素朴な質問に、私は微笑みながら「イエス」と答えました。ここまで来て、審査に時間がかかるからと、申請を取り下げる人がいるとでも? 彼は私の返答を聞いて、カウンターの奥の部屋に入りかけました。しかし、急に戻って来て、「そうそう、クレジットカードは半年で15ドル(約1200円)の手数料を取られるんだけど、それは知ってるよね?それでもかまわないかな?」と聞いてきました。今度は微笑を通り越して吹き出しそうになりながら、再び「イエス」。月間40万円、半年で最大240万円の信用枠を取ろうとしている者が、1200円で思い留まるとでも?ディーンくん、なかなかツボを押さえて笑わせてくれます。

お返しに一本取るつもりで、「カードが取れたら、最初の半年間の手数料は免除になるんじゃない!」と言ってみました。彼は私がいきなりマオリ語でも話し始めたかのように驚いて、"Why?"と聞いてきました。「だって私たちの口座は"ABC"よ。あの口座を開いた人がカードを作った場合、最初の半年間の手数料は免除されるんでしょう?」と答えると、「あぁ、そうだったね。すっかり忘れてたよ」という想定していた照れ笑いの代わりに、「どこでそんなことを聞いたの?」という、まったく予想外な、真顔の質問が返ってきました。お返しに笑いを取るどころではありません。

彼はすぐに、二人で記入し終えたばかりの申請書を広げ、再び細かい字の条項を読み始めようとしています。しかし、モーテルでそれを全部読んできていた私は、そこには記入されていないことを知っていました。「そこじゃないわ。あなたがくれた口座解説のパンフレットの中の"ABC口座"の欄を見て。25ページだったかな?右側のページの真ん中あたりに書いてあるわ」 前夜に読んだので、よく覚えていました。

「ホントだ」パンフレットから顔を上げたディーンは、不思議な手品でも見せられたように、疑念と賞賛の相交じったなんとも言えない表情を浮かべ、目の前のアジア人をしげしげと見つめました。そして、覚悟を決めたように深くうなずくと、「わかった。じゃ、行ってくるよ」とキッパリと言い、今度こそ奥の部屋に消えていきました。待つこと数十分。かなりの長電話です。熱心な説得工作なのか、ここの人にありがちな天気の話が延々と続いているのか・・・。ドアが開き、彼が戻ってきました。「話は伝えたよ。どうなるかわからないけど、明日にもカード部門の人から電話がいくと思う。」ともあれ申請終了。今日のところはこれで良し♪(つづく)

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「マヨネーズ」 新潟県中越地震で被災された方々が少しでも、1日でも早く、元の生活に戻られるよう心からお祈り申し上げます。神戸大震災の時のように信じられない勢いで犠牲者が拡大しなかったことがせめてもの慰めですが、高齢者の多い豪雪地帯、被災者の苦しみはどこであっても同じでしょう。
My thoughts are with you.

一方で、今日になってイラクで再び日本人男性が人質になったことが発覚したようで、間違っても先の欧米人のような惨い結末にならないことを切に祈ります。

西蘭みこと