Vol.0248 「NZ・金融編」 〜銀行チャチャチャ その4〜

凸凹銀行で希望する口座を開くことができた私たちは、すぐにシティーの○×銀行に出向きました。担当者ステラがいる高層階の専用フロアには行かず、窓口の脇、顧客サービス担当がずらりと並ぶカウンターに直行しました。さすがシティーの大店舗、規模が違います。しかし、そんなものは今の私たちには何の足しにもなりません。ここまで来るのがいかに負担かを、駐車場探しの面倒くささもあってしみじみと感じていました。(←繁華街といっても香港と比べたら人も疎らでスカスカのシティー)

「今日はどういうご用件で?」落ち着いた雰囲気の、私と同年配のアジア系女性担当者でした。次々と目の前に現れる顧客の、ありとあらゆる要望に応えなくてはいけない部署だけに、彼女の物腰には豊富な業務経験が見て取れました。これだけの店でこの職務にあるということ自体、彼女の有能さを証明しています。「口座を解約したいんですが・・・」と言うと、彼女の顔からサッと笑顔が消えました。この高金利下、例え個人の小金とはいえ、喉から手が出るほど預金が欲しい銀行にとっては無理からぬ反応です。

「それはまたどういう理由で?」「家の近所に御行の支店がないもので」「お住まいはどちらですか?テレフォン・バンキングやインターネット・バンキングはご利用になってますか?」「ええ、どちらも利用しています。でも、どうしても解約したいので、残高を銀行振り出し小切手にして下さい」と言うと、彼女はそれ以上の質問を諦め、私が手渡したキャッシュカードを手にパソコンに向かいました。

そしてすぐに、「この口座は昨日開設されたものですよね?」と驚きの声をあげました。これもまた無理からぬことです。開いて24時間も経っていない口座を閉めに来る客は、そうはいないはずです。「そうです。」「どうしてまた?」「近所に別の銀行を見つけたもので。シティーにはそうそう来ませんし。」私の説明にウソはありませんが、今どきの銀行業務はカード、電話、ネットでほとんどのことができ、店に出向く必要がないのですから、説得力はありません。当然ですが、彼女は私の理由付けを訝っていました。

「私どものサービスにご不満ですか?」「いいえ、そういうわけではありません。ただ、開いた口座が希望していたものと違った上、近所の銀行で希望のものが開けたのでそちらに一本化しようと思ってるんです。」「金利のつく口座もありますし、更に高金利をお望みなら貯蓄口座や定期預金口座もありますが・・・」私たちの口座に金利がつかないことを瞬時に見て取った彼女は、事の展開に察しがついているようでした。「最初からこういう人が担当だったら、話は違っていたかもしれない」と思うとやや残念でした。

しかし、ステラに対して非難めいた気持ちはありませんでした。彼女に悪気がないのは明らかです。ただし、あまりにも知識が乏しく、担当者としては不安でした。彼女と話している時に、私がふと「金利も今年に入って3回も上がってるし・・・」と言うと、彼女が「そんなに上がってないわ。確か2回よ」と反論したのには、本当に驚きました。預金でも借入でも、これだけ「金利、金利」と騒いでいる高金利下で、この認識度はバンカーとして信じがたいものでした。彼女に会った直後、準備(中央)銀行は今年4度目の利上げを実施しています。(その後もう1回上がり、執筆時で計5回の利上げに)

目の前の彼女はもう一度、「私どものサービスか担当者にご不満ですか?」と聞いてきました。鋭い勘です。けれど、「いいえ、そうではありません」と、私はきっぱりと答えました。微妙な違いですが、不安なだけで不満ではなく、現に彼女自身には、昨日の出来事を完全に帳消しにできるほどのプロフェッショナリズムを感じていました。長年勤めてきた経験から、担当者の出来不出来と企業の優劣はまったく関係ないことを、私も重々承知しています。特に大企業ともなれば従業員の質は千差万別です。ですから、担当者一人の印象でその企業を判断することは賢明なことではありません。

彼女は私に翻意がないのを確認すると、不承不承席を立ち、奥から小切手を持ってきました。金額を書き入れる場所には私たちの今後1、2年の生活費と事業立ち上げ資金の総額が、セント単位まできちんと打ち込まれています。カードを返して必要書類にサインをして立ち上がると、それで終わりでした。あっけないものです。

ステラにはあえて挨拶しませんでした。彼女にとってはたくさんいる顧客の一人でしかない私たちですが、口座を1日で解約したとなれば、当然、理由を尋ねられるでしょう。しかし、それ以降の会話は双方にとって心地いいものではないはずです。香港からの送金のために開いた仮口座にはほとんど金利がつかなかったので、彼らはそこで十分元を取っているはずです。後ろめたいことは何もありません。「さよなら、○×・・・」そう思いながらクルマに戻り、私たちは再び凸凹に向かいました。(つづく)

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「マヨネーズ」 とあるシティーの銀行を訪ねた時のこと。入り口に昔懐かしいディスコ(クラブでなく!)の黒服のような服装の、若くてハンサムな西洋人男性が立ち、「いらっしゃいませ。ご用件は?」と、入ってくる顧客一人一人に満面の笑顔で声をかけています。「まるでホストだな〜(笑)」と思いながら正面の窓口に行くと、ガラスの向こうにかしこまっている4、5人は全員女性で、しかもすべて中国系と思われるアジア人でした。

帰りがけに横に並んだ顧客サービスのカウンターを見ると、座っている3人は全員、年季の入った貫禄あるインド系女性ではありませんか!その時間帯での偶然なのかもしれませんが、この人種別"適材適所"の妙に思わずうつむいてニヤニヤしながら店を出ました。

西蘭みこと