Vol.0241 「NZ・金融編」 〜銀行チャチャチャ〜

今年5月末、私たちのニュージーランド移住申請に認可がおりるやいなや、移住エージェントはてきぱきと次へのステップを指示してきました。その中には、家族全員のパスポートを国際宅急便で送ってシールになったビザを張ることを筆頭に、"銀行の口座開設"という一項も含まれていました。私たちは一種の起業家ビザである「ロングターム・ビジネス・ビザ」(LTBV)で移住認可がおりたため、当初3年間の生活費や事業資金を持ち込むことも認可条件の一つであり、銀行口座の開設は必須でした。

さっそくエージェントから「この銀行のこの人に連絡するように」というメールが送られてきました。銀行名を見て「ここかぁ」と、ややがっかり。私は8年ほど銀行勤めをしていたため、ほとんどの大手金融機関に対し個人的なイメージを持っていますが、紹介されたオーストラリア系の○×銀行にはあまり惹かれるものがありませんでした。ただし、これはまったく主観的な印象で特に根拠があるわけでもありません。確かシンガポールに住んでいた10年以上前に、一度だけ定期預金を預け入れたことがありましたが、それ以降、公私ともに取引はありませんでした。

しかし、海外にいながらにして口座を開けるような銀行がニュージーランドにいくつもあるとも思えず、「エージェントが紹介してくるくらいだから、彼らがバックマージンをもらっていたとしても、それなりに移民業務に強いところなんだろう」と思い、口座を開くことにしました。「まあ送金だけさせてもらって、後から使い勝手のいい銀行を探そう」というのが本音でした。紹介された女性担当者のステラと連絡を取り合い、移住までの仮口座というかたちで口座を開設し、7月早々に当座の資金を送金しました。

7月下旬にオークランド入りするやいなや、レンタル携帯電話、レンタカー、モーテル代、食費と、お金が羽を生やしたように出て行きました。当面の支払いのためには米ドル建てのトラベラーズ・チェックやクレジットカードがあるものの、両方とも使うたびにニュージーランド・ドルとの間で為替リスクを負わなくてはなりません。香港ドルでのカード支払いを極力抑えるためにも、ステラのところに送った資金を一刻も早く取り崩す必要がありました。

さっそくシティーの銀行街にある、高層階の専用フロアに彼女を尋ねました。エレベーターが開くと同時に、受付の後ろの"Migrant Banking"の英文字、 "移民銀行業務部"の漢字、それに続く同じことを意味しているのであろうハングル文字の部署名が、目に飛び込んできました。"移民銀行業務部"は日本語としても通じますが、間違いなく中国語でしょう。受け付けに座っていた女性2人はいずれも華人系で、一人は何やら広東語で電話をしている最中でした。私たちはすぐに小部屋に通されました。

大手外銀の移民業務となれば、資金が入ってくるばかりの、銀行にとっては非常に"おいしい"部門のはず。その担当者となれば、アジア人受けしそうな、いかにも白人白人した外見ながらフレンドリーでなおかつ気が効く、若いやり手のバンカーでしょう。ビシッと高級スーツに身を包んだ、ゴージャスで背の高い美人が颯爽と登場するはずです。プライベート・バンキング業務といえば担当者はまず女性で、しかもなぜか美人が多いものなのです。こんな部署では不景気な顔などしてられないのです。

ところが、現れたのは銀行のロゴの入ったポロシャツを着た、かなりカジュアルないでたちの小柄な年配女性でした。格好だけ見ればどこかの選挙事務所の運動員といったところですが、書類をワサワサと挟んだ紙ばさみを抱えた姿は、これから黒板の前で授業を始める小学校の先生のようにも見えます。ピカピカの専用フロアの雰囲気とはずい分違う印象ながら、NZに着いてまだ数日の身、「ここではバンカーといえどもかなりカジュアルなんだな」と思いながら、ニコニコ顔のステラと机を挟んで向き合いました。

夫と私との取り決めで、ほとんどの事務手続きは移住の第一申請人本人である夫がやるものの、銀行関係は私が担当することになっていました。まず手始めに、手数料を取らない代わりに、この高金利下にもかかわらずほとんど金利のつかない仮口座を、正式な口座に変更する必要がありました。キャッシュカードも発行してもらわなければなりません。彼女は各種口座が一覧表になったパンフレットを広げ、一つ一つの口座の説明を始めようとしました。しかし、パッと見で6、7種類あったため、時間を省くためにもこちらの希望を伝え、それに合う口座を紹介してもらうことにしました。

私たちの希望は「残金に金利がつく普通預金口座で、キャッシュカードが使えるもの」ということのみでした。NZでは香港同様、キャッシュカードがデビットカードも兼ねており、EFTPOS(エフトポス)という端末を通じて銀行口座から直接支払いができます。「この高金利下、普通口座でも4%ぐらいの金利はつくだろう。口座管理費とかの名目で多少手数料を取られたとしても、コストは金利でカバーできるはず」と、一時しのぎの口座である以上、細かい条件は気にしないつもりでした。けっきょく「小切手も切れる」という口座を紹介され、「この口座の金利は何パーセントかしら?」と尋ねると、意外にもステラは即答できませんでした。(つづく)

******************************************************************************************

「マヨネーズ」 夫が私専用の中古の小型車を探しています。初心者への思いやり半分、自分のクルマをキズ付けられたくない本音半分のようです。「ママ、"めつぶし"のクルマは火が出るかもしれないからやめた方がいいよ」とは善の忠告。ハイハイ、しかと拝聴^^;

西蘭みこと