Vol.0230 「NZ・生活編」 〜成功移住者への道を外れて〜

「韓国人の経営なんだけどいいかな?」 ニュージーランドへの移住前、当座の住まいとなるモーテルをインターネットで探していた夫が聞いてきました。「ぜんぜんOKよ!オーナーはきっと移住者だろうから、いろいろ話が聞けるかもよ♪」と、私は二つ返事で賛成しました。もちろんオーナーが何人(なにじん)であるかなど、元来私達がこだわるはずはないのですが、韓国人ということにむしろ興味をそそられました。

レンタカーを借りてたどり着いたのは、お世辞にもお洒落とは言えないネットで見た通りの場所でした。しかし、観光客ではあるまいし、家が見つかるまで住むわけですから贅沢など言ってられません。さっさとチェックインを済ませ、170キロ近い大荷物から解放され、心からホッ〜と一息。部屋の寒さにちょっと驚きながらも、電気ヒーターと各ベッドの電気毛布を確認して先ずは一安心。

かなり前に予約を入れ、部屋も空いていたのに、まったく掃除がしておらず、留守番らしい学生風の女の子が吸殻の山の灰皿を慌てて運び出すところなどを目にしてしまい、ややがっかり。そこで、荷物を運び込むやいなや、そそくさと遅いお昼へ。戻ってくるとさすがに掃除は済んでいましたが、今までのモーテルになく力の入っていない片付け具合。出掛けにチラリと見た家庭用にしてもかなり小さな掃除機での、"四角い部屋を丸く刷き"といった掃除のしかたに不安を感じたものの、見事に的中でした。しかし、それでも「まっ、いっか」の気分。なんたってここはNZ♪ しかも私達は、もう帰らなくてもいい♪

夕食時になってスプーンが3本しかないことに気づき、寝る時になってスイッチを入れた電気毛布が暖かくならないとわかっても、さして驚かなくなっていました。なぜか善のだけは半分だけ温かくなりました(笑) 子供達はそんなことにはお構いなく、ほとんど経験したことのない冬を「寒い!寒い!」と言いながらも楽しみ、パジャマの上にバスローブや袖なしのフリースを着、靴下に手袋という、本人たちなりの完全防備でぐっすり寝入ってしまいました。

翌日は日曜日。さっそく不動産探しへ。売買向けのオープンハウスはあちこちでやっているものの、訪ねた不動産屋はどこも休みでした。ひとまず子供の小学校の学区をクルマで流し、あちこちから仕入れた5軒の物件を外から見てみました。NZの不動産広告は通り名から番地まで出ているので助かります。月曜日は私が朝食を準備している間に、夫が私達よりやや年配のモーテルのオーナーの自室にお邪魔して、ネットをさせてもらってきました。その時、彼女と初めてゆっくり言葉を交わし、自分達が移住者であること、やや郊外のメドウバンクに家を探していることなどを伝えました。オーナーも2年前に移住してきた移住者でした。
(↑子供の通学路の一風景。カモもいっぱい)

その日、用事を済ませ午後になって戻ると、さっそくオーナーから電話が・・・。「不動産エージェントが訪ねて来てるんだけど」と言われ、「どのエージェントにも携帯の番号しか教えてないのになぁ?」と、心当たりのない夫は首を傾げながら出て行きました。大きな韓国製テレビが鎮座する、靴を脱いで上がるオーナーの自室に行くと、彼女の友人のエージェントが待っていたそうです。夫はそこで中年の韓国人女性二人に、「成功移住者への道」をとくとくと説かれたのです。

「まずは子供をビクトリア・プライマリー(小学校)へ入れて、それからレミュエラ・インターミディエート(中学校)に通わせるのよ。息子さんなんでしょう?だったらその後は、絶対、オークランド・グラマー(高校)に入れなくっちゃ。それが、成功した移住者ってもんよ!」と、すでに息子をオークランド・グラマーに通わせている不動産エージェントが言えば、「そうそう、うちの娘もレミュエラ・インターミディエートよ!」と、オーナーが横から援護射撃。思わぬ展開に二の句が告げなくなった夫がやっと聞き返せたのは、「ビクトリア・プライマリーだと何がいいんですか?」という素朴な質問でした。

「あの学区は金持ちの住むところなの!」という、想像を絶するエージェントの即答に夫はいよいよ絶句。彼女ははっきりと"rich people"と言ったそうです。そこからが彼女のご商売。「だからこういう物件に住まなきゃ」と、ビクトリア・プライマリーの学区に当たる賃貸料が週600ニュージーランド・ドル(4万5千円)以上の物件を紹介しにかかったそうです。夫はそれを丁重に断り、子供を元担任の先生がいるメドウバンク・スクールに入れるためにその学区で家を探しており、他の場所は検討していないことをはっきりと伝え、最後に"We are poor"とまで念押ししてきたそうです。彼女達二人の、「新参者のくせに、全然わかってないのね」という顔が思い浮かぶようでした。(つづく)

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「マヨネーズ」 モーテルの掃除を待つ間にランチをとろうと、前に行ったことのある近所のカフェへ。土曜日のせいか、残念ながらすでに閉まっていました。けっきょく、行き当たりばったりのカフェで、コーヒーにキッシュやパニーニで軽く腹ごしらえ。子供は隣の店でハンバーガーを買い、さっそく草むらでピクニック。

カフェのオーナーはどうもシンガポール人のようで、彼らが話している独特のアクセントの"シングリッシュ"に思わず夫と無言でニッコリ。私達にとり、お互いが知り合ったシンガポールの英語が懐かしくないわけありません。こうして異国の地で聞くと、「ふるさとの 訛りなつかし 停車場の 人込みの中に そを聞きに行く」と詠んだ石川啄木気分になるものです(笑) 移住初日は異邦人モード?

西蘭みこと