Vol.0229 「NZ・生活編」 〜4人ぼっち〜

昼直前に降り立ったオークランド空港は、いつでもどこでも込み合っている香港から来た身にはガランとした印象でした。出発前には冴えない天気が続いていると聞いていたのに、いざ来てみると空はどこまでも澄み渡り、ピーカンのお天気。機上からは、下の部分が地表に並行して定規で引いたようにまっすぐなニュージーランド特有の雲が見えましたが、地上に降りたとたん見当たらなくなってしまいました。(←機内から)

「着いた〜。」 正直言って、嬉しさよりも安堵が先に立ちました。感動はあとからじっくり楽しむケーキの上のサクランボ。気分はかなりニュートラルでした。計16個、170キロの荷物を3台のカートで運び出し、到着ラウンジのカフェで一息入れている間にも、夫は予約しておいた携帯電話のSIMカードの受け取り、レンタカー屋への電話、両替へと走り回ってくれていました。旅行気分の子供たちは窮屈だった11時間のフライトから解放され、その辺を走り回っています。

"4人ぼっち"。本当に私達4人だけでした。何人かの知り合いが空港までの出迎えを申し出てくれ身に余る光栄でしたが、最終的に到着日が土曜日になってしまったため、それぞれに別の用事が入ってしまい実現しませんでした。4人だけでひっそりと降り立ったことは、これからの新生活を象徴しているようで、私にはむしろ好ましく思えました。生活が始まればすぐに知り合いができ、子供たちが学校に行くようになればあっという間に地域社会に溶け込み、ごく普通の生活になっていくことでしょう。そのほんの少し前の"4人ぼっち"の時を慈しみ、心に刻んで置こうと思いました。

すぐに頼んでおいたレンタカー屋が大きなバンで迎えに来てくれ、荷物を積み込んで彼らのオフィスへ。担当についてくれた年配の女性はオールブラックスの黒いジャージ姿でした。ご主人が元オールブラックスで今でも試合のある日はジャージを着て必勝祈願をしているそうです。その日はちょうど、NZ・オーストラリア・南アフリカによる3ヶ国対抗試合の「NZ対南アフリカ戦」の日でした。彼女は私達が借りたばかりの小さなクルマに荷物を積み替えるのを手伝ってくれ、奇跡的にすべてが納まると、「ずっとラグビーを続けるのよ!」と息子達に言い、手を振って見送ってくれました。

こうして"4人ぼっち"は言葉を交わす人、声をかけてくれる人、訪ねて行く人・・・と、知り合いのすそ野を広げながら、だんだんと緩いものになり、すぐに空気のように軽い、まったく意識しないものになっていくことでしょう。各人が大きな水車のようにゆっくり、ゆっくりと回り始めれば、4人はそれぞれのスピードで回り続け、あっと言う間にそれが当たり前の日々になっていくのです。今はそうなってしまうまでの、ほんのひと時の4人で寄り添う時間・・・。

クルマがシティーへと続くメインロードに出ると、目の前に巨大なNZ国旗が現れ、折りからの風に大きく翻っていました。手足もない四角い布なのに大空で揺らぎながら、まるで"Welcome to New Zealand"と手招きしてくれているかのように見え、初めて目頭が熱くなりました。「もう帰らなくてもいいんだ」と思うと、今しがたまでニュートラルだった気持ちがゆっくりと高揚してくるのを感じました。夢にまで見たNZのありふれた風景の中にいる自分が、今や現実となったのです。

太陽が一番高い時間帯でも身が引き締まるような寒さの中、冷たい空気をめいっぱい吸い込んでも決して冷えない部分を身体の中心に感じました。受け入れられたことへの感謝を忘れず、自分たちが偶然ここにいるのではないことの意味を考えながら、家族を大切に、友情を育みながら、たくさん考え、労を厭わず、つましく清らかに、楽しく暮らしていこうと思います。長い目で見れば、受け入れられた者の幸せは、受け入れたNZへの最大の返礼となることでしょう。「幸せになろう。NZのために尽くそう」、そう心に誓いながら、大きく翻る旗のもとを通り過ぎました。

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「マヨネーズ」 おかげさまで、予定通り7月24日の土曜日に無事オークランド入りしました。今日でちょうど丸1週間です。家も見つかり、来週月曜日からは子供たちも地元の学校に通い始めます。新しい制服を揃え、散髪も済ませ、多少の緊張はあるかもしれませんが、二人とも新しい学校での生活をとても楽しみにしています。平日の日中、どこに行っても子供の姿がなく、もう旅行者ではないという自覚もあってか、10歳の温は、「善、英語でしゃべっちゃダメだよ。学校から逃げてきた(="サボった"のつもり)と思われちゃうよ。日本語しゃべりな」と、ノー天気な7歳の弟を兄貴らしく諭したりしてますが、両親と一緒で"逃げてきた"もないだろうに(笑)

この間、夫は八面六臂の大活躍で、専任ドライバーでありながら、引越し荷物の税関手続き、輸入したマイカーの受け入れ手続き、自宅の賃貸契約、電話とインターネット・携帯電話の申し込み、運転免許の筆記試験を終了し、広告片手に家電製品を買う店の目星をつけてきたかと思えば、子供二人を連れてこれまた広告で探してきたかなり遠い美容院へ行ってくれるなど、あれよあれよの行動力。

私はと言えば、料理と後片付け、一部手洗いの洗濯、銀行口座開設、クレジットカード取得交渉と、担当は家事と金融のみ。今日はキウイの友人に誘われるままにアロマセラピー講座に参加し、エッセンシャルオイルもさることながら新しい知り合いとのおしゃべりやおいしい手作りケーキを堪能してきました。新生活はなし崩し的に始まっています。

西蘭みこと